一般社団法人 放送人の会

放送人グランプリ2026(第25回)


―贈賞式2026年5月30日(土)15時~、受賞懇親パーティー17時~ 千代田放送会館―

毎年度の放送番組の中から、「放送人の会」会員が推薦した番組を審査し、顕彰する。"放送人の放送人による放送人のための賞"。

【グランプリ 大賞】 小柳ちひろ(ドキュメンタリーディレクター&プロデューサー)
△秋田県生まれ。同志社大学卒業後、映像制作会社テムジン入社。△『引き裂かれた歳月 証言記録 シベリア抑留』(2010年放送文化基金賞優秀賞受賞)、『原爆救護 被爆した兵士の歳月』(2016年ATP賞グランプリ他)などを制作する。△戦争の時代に生きた女性たちに焦点を当てたドキュメンタリーとしては、『女たちのシベリア抑留』(2014年文化庁芸術祭賞優秀賞他)、『NHKスペシャル 女たちの太平洋戦争 従軍看護婦激戦地の記録』(2015年放送文化基金賞 奨励賞他)、『サハリン残留 家族の歳月』(2017年ギャラクシー賞選奨)、『戦争花嫁たちのアメリカ』(2019年ATP賞優秀賞)がある。△2015年度「放送ウーマン賞」受賞。
 <2025年の主な作品>
①ETV特集『〝戦争未亡人〟と呼ばれて 百歳を超えた妻たちの戦後』、ディレクター:小柳ちひろ、撮影:後藤一平、編集:前嶌健治、音響効果:河原久美子、制作統括:東野真、太田宏一、鐘川崇仁。
➁ETV特集『今は、まだ産めません 卵子凍結 彼女たちの現在地』、ディレクター&語り:柳田香帆、撮影:門脇妙子、編集:前嶌健治、音響効果:河原久美子、制作統括:梅原勇樹、堀川篤志、小柳ちひろ。

<贈賞理由>
 この国で「戦争を伝える」ことは年々難しくなっています。「ウクライナ」「ガザ」「イラン」…まさに世界は戦争の真っ最中なのに、日本の「戦争」とは80年前の「太平洋戦争」のことで、戦場や戦災を体験したリアルな証言者はごくわずかとなりました。小柳ちひろディレクターは映像制作会社テムジン入社後、30代前半からNHK「戦争証言プロジェクト」に参加、「記憶の風化」に抗い、わずかな「戦争体験者」を丹念に探し出し取材を重ねてきました。とりわけ『従軍看護婦激戦地の記録』『女たちのシベリア抑留』といった女性たちにフォーカスした番組はさまざまな賞を受賞、放送界を代表するドキュメンタリーディレクターであり、近年はプロデューサーとしても活躍しています。

 今回受賞対象になった『〝戦争未亡人〟と呼ばれて 百歳を超えた妻たちの戦後』は彼女の真骨頂ともいえる作品。56万人いたといわれる【戦没者の妻】の視点から戦後80年を振り返りました。「未亡人たち」の苦難として、「男性の卑猥な視線やハラスメント」を取り上げたり、「遺族年金」の問題を堀り下げるなど多様で複合的な視点は見事でした。特に素晴らしいのは「100歳を超えた戦争未亡人たち」という切り口の鮮やかさ。「戦後80年」を「100歳」が軽々と凌駕してしまう痛快さがありましたし、「100年後も平和であれ!」という希望や祈りさえ感じました。

 一方『今はまだ産めません』は「卵子凍結」を経験した6人の女性たちの極めて現代的な群像ドキュメント。30代の女性ディレクター・柳田香帆さん自身の体験から生まれた企画を小柳さんがプロデュースしたものです。柳田さんがナイーブな問題に軽やかな調子で鋭く切り込んでゆくインタビューは、小柳さんに通じるものがあります。かつて老兵士だった老人の表情が、彼女の鋭い問いにぐっと引き締しまり、逆に彼女の一言で固かった表情がゆるみ、柔らかく微笑み、涙するさまは、心に深く刻み込まれています。小柳さんの遺伝子が確実に若い世代にも受け継がれ、膨らんでいることを頼もしく思いました。
【グランプリ】 シリーズ「JOBK100年 小さき声に向き合う」制作チーム (NHK大阪放送局)
<受賞該当作品>
『誇りうるもの ~部落問題の100年~』(初回放送8月1日)、 『障害者と放送 ~過去から未来へ~』(初回放送12月5日)、△制作統括&ディレクター:森下光泰、制作統括:久保暢之、空門勇魚、ディレクター:山口智也、プロデューサー:井上要、語り:山根基世、釘宮理恵、兼清麻美、編集:浮田浩治、西條文彦、撮影:森信行、浅見織恵、音響効果:木村充宏、東谷尚、美術:小川有紀、CG制作:山田成彦。

<贈賞理由>
 この「小さな声に向き合う」シリーズは、NHK大阪放送局が、その存在を賭けて、「部落問題」や「障害者問題」など社会福祉全般に深く関わってきたことを示しています。まずそのことを評価したいと思います。
 特に『誇りうるもの~部落問題の100年~』は、NHK大阪放送局が格闘してきた過去の番組にもう一度光を当て、現在そして未来に向けて人権の尊さを訴えた記念碑的な作品です。

 映像とはなんと雄弁な語り手でしょうか。1958年の「日本の素顔」のモノクロ・フィルムに記録されていたのは、上水道の恩恵を受けず、線路で拾った石炭を燃やし、靴づくりに一日16時間費やし300円を得る暮らしです。雨の日は家でも傘を差し、天井の間から月が覗く劣悪な住環境にとめ置かれ、教育を受ける機会を奪われ、就職や結婚から排除される。そんな証言を紹介しています。

 1988年の「風よ陽よ墓標に」では、いわれなき差別が、その人が亡くなった後も差別戒名の形で墓石に刻まれたことを伝えています。今回の番組では、そうした墓石を一堂に集める現在の地域の取り組みを紹介し、差別の存在を隠すのではなく、負の歴史があったことを伝えようとする決意を描いています。
 また番組では100年前の水平社宣言に関わった人たちの生前の証言も紹介しています。1981年の放送「証言・水平社運動」が伝える残酷な差別の実態と、差別を受けてきた当事者がどのように日本で初めての人権宣言を契機に誇りと自信を獲得していったという証言を聞き、棺桶をつくる家で育った俳優の三國連太郎さんは、水平社宣言と出会う中で、人間とは何かを深く考えるようになったと語っています。
 また、部落の生計を支えて来た皮革産業や土地の季節を彩る伝統芸能を担ってきた春駒や三番叟まわしといった門付け芸は、衰退の危機を乗り越え、新たな継承の時代を迎えています。

 新奇なものに目を奪われ時代に流されがちなテレビの世界にあって、被差別部落、障害者、マイノリティーの問題を折に触れて取り上げ、人権という本質的な課題に対峙し、小さな声を届けようとしてきたNHK大阪放送局の制作チームの覚悟のほどに、改めて拍手を送ります。
【グランプリ】 曺 琴袖 (TBS『報道特集』前編集長)
△京都生まれ。早稲田大学法学部卒業、1995年4月TBSに入社、外信部に配属され、2004年ニューヨーク支局。△2020年7月から5年間「報道特集」編集長、2024年兵庫県知事選キャンペーン報道を指揮する。△2025年TBS情報制作局長。

<贈賞理由>
 1995年にTBSに入社して以来、「報道特集」ディレクターなど報道や情報番組の現場で働き、2020年7月から2025年夏まで『報道特集』の編集長を務めました。

 「報道特集」はタブーに臆することなく、積極果敢な取材、調査報道を進めることで知られる番組ですが、編集長在任中には「東京五輪」「旧統一教会と政治」などのキャンペーンを指揮してきました。さらに2024年の兵庫県知事選をめぐる問題に関するキャンペーン報道では、斎藤元彦知事の支持者と見られる層から激しい誹謗中傷を受け、個人に対するヘイトのコメントや殺害予告のメールが届くという事態になりながらも、「2馬力選挙」の実態や自殺者を生んだ誹謗中傷問題について、表面的な事実だけでなく、背景にある人間関係、政治的圧力、市民の声など“見えにくい構造”を粘り強く掘り下げる調査取材で、積極果敢に伝え続けました。その姿勢は高い評価に値するものです。

 また最近は、放送番組制作以外の分野でも情報発信につとめ、特に若い世代の育成に力をいれていることも評価したいと思います。
【グランプリ】  武田砂鉄 (ラジオパーソナリティー、フリ―ライター)
△1982年東京生まれ。大学卒業後、出版社で編集に携わり、2014年秋よりフリー。インタビュー・書籍構成も手掛ける。△2015年9月『紋切型社会』で「第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞する。△多分野に亘る執筆活動の傍ら、現在、ラジオ番組『武田砂鉄 ラジオマガジン』(文化放送)、『武田砂鉄のプレ金ナイト』(TBSラジオ)のパーソナリティを務める。

<贈賞理由>
 月曜~木曜の朝8時からの「武田砂鉄 ラジオマガジン」(文化放送)、金曜夜10時の「武田砂鉄のプレ金ナイト」(TBSラジオ)他で、ラジオパーソナリティーとして存在感を放つ武田砂鉄さん。低く落ち着いた声とトーク力が魅力で、ジャーナリスティックな視点と知見に支えられた安定感が聴取者に安心感を与えてくれます。
 ライターとして、新聞、雑誌、ウェブで多数の連載をもち独自の切り口で発信し続ける傍らに、毎日のラジオ出演というハードスケジュールは驚異的です。政治、経済、国際情勢から社会、芸能、カルチャーまで硬軟織り交ぜた守備範囲の広さも素晴らしく、本人は専門分野がないと言いますが、何でも語れてしまう引き出しの数と深さにも感服します。

 毎日、毎回、違うゲストとの対談(インタビュー)のためにゲストの著作物を読み込んでおく徹底した準備もプロの心構えを感じます。過剰なまでに掘り下げる考察と、触れにくいこともズバッと切り込む批判精神が持ち味で、劣化し淀み腐敗した昨今の事柄にも異議を唱え続けます。
 あなたは、これからのラジオ界に希望と期待を抱かせる光源です。10年、20年、30年とラジオパーソナリティーとして、私たちの狭まりがちな視野を広げ、知的好奇心を刺激し続けてください。
【グランプリ】 TOKYO FM 広島FM共同制作特別番組 『80年の越境~ヒロシマの隣町から~』制作チーム
<放送日> 2025年8月24日(日)19時00分~19時55分、
<スタッフ>プロデューサー;原田洋子(TOKYO FM)、ディレクター;丁省吾(サウンズネクスト)、木村尚志(サウンズネクスト)、構成;西澤史朗(フリー)、パーソナリティ;後藤亮介(TOKYO FM)、取材;坂本義行、神原隆秀(広島エフエム放送)。

<贈賞理由>
 戦争を語る当事者がいなくなるいま、 私たちはその痛みを想像することが可能なのか? 呉の人びとへの取材、京大の直野章子氏、「ピース・コミュニケーション」を提唱する伊藤剛氏のお話とともに考える番組です。
 原爆投下そして敗戦から80年。その記憶を語ることのできる人々が圧倒的少数になりつつあるいま、当事者ではない人々は戦争をどう伝えていけばいいのか?メディアはその記憶をどう記録し、遺してゆくべきなのか?ともすれば戦争を語ることが形骸化しつつあるいま、根源的な問題に着目したその姿勢をまず評価します。

 さらに当事者になれない若い制作者がどのように悩み、80年前の出来事に思いを馳せたのか、非常に興味深い作品です。これから番組をつくる若い世代へのメッセージともとれる番組を、広島から離れた隣町の軍港都市・呉から発信したこと、東京と広島の共同制作で作られたことを顕彰します。――番組で流れる呉出身の坂田明さんが奏するサックス「ひまわり」のテーマが胸に迫ります。
【グランプリ】 震災プロジェクト「未来への手紙」制作チーム (ATP・NHK)
△2011年の東日本大震災。ATP加盟の制作会社のディレクターたちは、被災地の子どもたちに〝今、伝えたいこと〟をビデオで撮影して貰い、100通のビデオレターに編集して、ネットで配信する。
△翌年から『未来への手紙』と題してNHKで放送され、その後も数年おきの放送を重ね、今年の3月8日『未来への手紙2026~あれから15年たちました~』が放送される。
<スタッフ>
 発起人プロデューサー:長嶋甲兵、井上啓子、是枝裕和、プロデューサー:堀内史子、鐘川崇仁、松本裕子、平田潤子、讃岐好伸(NHK)、荻野太朗(NHKエンタープライズ)ほか、ディレクター:平岡雅子、牧嶋庄司、羽根井信英、森都、宮部洋二郎、土井鮎太、山本遥、中村仁美ほか、参加制作会社:クリエイティブネクサス、テレコムスタッフ、テムジン、パオネットワーク、えふぶんの壱、ダイメディアほか。

<贈賞理由>
 それは、思いの塊からはじまっている。2011年の初夏、テレビ番組の制作者たちは東日本大震災の被災地の子どもたちにビデオカメラを渡し、彼らの撮影をサポートする企画を立ち上げる。
 ATPに加盟する制作会社のディレクターたちは被災地で暮らす100人の子どもたち一人一人を訪ねて、〝今、伝えたいこと〟をビデオで撮影して貰う。かけがえのない思いが刻まれた『未来への願い100通のビデオレター』はネット上で配信され、大きな反響を呼ぶ。
 翌12年、14年、16年、19年、21年、「未来への手紙」と題してNHKで制作放送される。そして大震災15年の、26年3月に『あれから15年たちました』が放送になる。
 ――見終わった後に心がやわらかくなる作品でした。大テーマはありませんが、人びとの心が確かに記録されている、そう感じたドキュメンタリーです。小さな記録の積み重ねが大きく膨らむ瞬間があって、心が揺さぶられるのです。この作品で描かれている5人は、当時7歳から10歳、多感な年頃の体験は、彼らの心の成長に影響を与えていると、自身と肉親が語る。

 閖上の少女は「世界の被災地の皆さんへ、笑顔で頑張りましょう!」と元気いっぱいで、人に頼っちゃいけないと笑顔を振りまいていく。そんな自身を顧みて、今は成長して人に頼れるようになったから、これからの生き方が大事だね、とポツリポツリと語る。
 双葉町の少女は役場勤めの父親と離れているのが悲しいと泣いてしまう。1年後、少女の家族は加須市(埼玉県)で暮らす。育った家は帰宅困難地区になり、除染廃棄物の中間貯蔵施設の敷地内に入ってしまう。父親が「町の復興」に頑張る姿から、今、少女は埼玉の大学で観光学を学ぶ。卒論のテーマは「被災地の復興イベント」。我が家の跡地を訪れ、更地を前に言葉も出ない。……廃棄物を燃やす煙が見えて「意外と近いんだ」と呟く。除染廃棄物は2045年までに県外移転されると言うが、彼女は「ふるさとはどこなのか」と思う。

 この作品は、大震災で否応なく生き方を変えられた、小さな普通の人びとの心の定点観測の記録であり、と同時に撮り続けたディレクターたちの定点観測の記録でもある。制作スタッフの数は延べで100人以上になる。淡々と綴られた人生が深く重く、見ている私たちの想像力と課題もまた問われる作品にもなっている。
【備考】 ≪選考に関して≫
 放送人グランプリ2026の贈賞は、2025年4月から2026年3月末日までに日本国内で放送・送信された番組、またその間の放送人の活動を対象に、全国の「放送人の会」会員が投票し、それをもとに、会員である贈賞プロジェクト委員が合議して選考しました。 また大山勝美賞の選考も、会員で構成される選考プロジェクト委員によるものです。

【放送人グランプリ・贈賞プロジェクト委員】(あいうえお順)
青木裕子、岡室美奈子、小川和之、木原毅、新山賢治、菅野高至、長井展光、長嶋甲兵、永田浩三、林健嗣、三原治、村上雅通、本木敦子、八木康夫、矢島良彬、山鹿達也、深尾隆一 (チーフ)渡辺紘史、(アドバイザリー委員)河野尚行。

【大山勝美賞・選考プロジェクト委員】(あいうえお順)
内山聖子、(チーフ)鈴木嘉一、次屋尚、八木康夫、若泉久朗、渡辺紘史。


過去開催分はこちらから

ページのトップへ戻る