一般社団法人 放送人の会

放送人グランプリ2022(第21回)


―贈賞式2022年5月21日(土)15時 千代田放送会館(予定)―

毎年度の放送番組の中から、「放送人の会」会員が推薦した番組を審査し、顕彰する。"放送人の放送人による放送人のための賞"。

【グランプリ 大賞】 土曜ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」
放送日:2021年4月24日~5月29日NHK総合(全5回)。
作:渡辺あや、音楽:清水靖晃、語り:伊武雅刀、制作統括:勝田夏子、訓覇圭、演出:柴田岳志、堀切園健太郎、 美術:小林史幸、岡島太郎、技術:小笠原洋一、増田徹、音響効果:島津楽貴、太田岳二、制作:NEP、制作著作:NHK、 出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、/國村隼/、古舘寬治、岩松了、松重豊、(ゲスト)国広富之、辰巳琢郎、嶋田久作、ほか。

 ドラマの醍醐味は読後感にあります。如何に長く、ドラマから受けた「心の反応」が持続するか、それがどれだけ充実しているかが、ドラマの良しあしを決めると言っていいでしょう。この作品は、その読後感の極めてよいドラマです。

 組織を維持発展させるためには、正義に目をつぶり、嘘を嘘と認めず、隠蔽を図り、虚名を求め、忖度と自己保身に走る理事たちによって腐り始めた大学と、その再建のために雇われた元テレビキャスター、中身は空っぽだが、好感度だけはよろしい、というこの主人公は、今ここにある危機にどう対処できるのか。

 ドラマは、コロナ禍における思考停止状態の政治や社会、そして多数派に同調し少数者を切り捨てる日本人の今に重ねた風刺劇の仕立てだが、登場人物の一人一人がドラマの中で進化していくさまが描かれ、深く考えさせるドラマです。先見性と寓意性に満ちた脚本の渡辺あやさんはじめ、定型に陥らない役者たちの優れた演技、それらを構想し設計し、タイムリーで硬質な作品に仕上げた制作陣のゆるぎない視点の確かさと高い志に対して大賞を贈賞します。
【グランプリ 優秀賞】 第36回民教協スペシャル「ハマのドン”最後の闘い”―博打は許さないー」
放送日:2022年2月5日(土)10:30~11:25 (テレビ朝日)
プロデューサー:江口英明、ディレクター:松原文枝、民間放送教育協会:雪竹弘一、ナレーション:リリー・フランキー

 番組は、カジノ誘致問題に揺れた昨年夏の横浜市長選で、反対の急先鋒となった“ハマのドン”こと藤木幸夫氏の選挙戦を、一年間の取材で追ったドキュメントです。
 横浜の港湾の荷役をとりまとめ、歴代の総理経験者や地元政財界に顔が利く保守の重鎮が“時の政権”と袂を分かち、市民を味方につけ、戦いを挑んだ理由は何だったのか、その生い立ちや港湾横浜の歴史を織り込んで、舞台裏の攻防を見事に活写し、知られざる「政治の裏側」や若者たちを中心とした「市民の行動する力」を知らしめた制作者の執念と、優れた企画の選奨を長年続ける「民間放送教育協会」の努力をたたえます。
【グランプリ 優秀賞】 ETV特集 「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」
放送日:2021年7月31日(NHKEテレ)、プロデューサー:真野修一、ディレクター:青山浩平、持丸彰子

 コロナ禍では普段見ることのできない社会の矛盾が露わになる。
 この番組は、都立松沢病院のコロナ専門病棟にカメラを据え、日本の精神医療の矛盾を凝視している。精神疾患があり、一般の病院の受け入れが困難とされた人たちが次々に運び込まれてくる。元々いた精神科病院では、南京錠をかけて閉じ込める、オムツ交換も頻繁にしてくれない、など過酷な実態が明らかになる。

 ディレクターの青山浩平は、「長すぎた病院〜精神医療・知られざる実態〜」(18年2月)で精神医療の長期入院の実態を告発したが、今回も病院にしか居場所のない患者、逼迫する医療体制の中で葛藤する医療従事者たち、行き届かない行政の実態に迫っている。持丸彰子ディレクターの粘り強い密着取材も光っている。

 日本の精神医療の遅れを問題提起した優れた調査報道ドキュメンタリーであり、コロナ禍でもっとも光の当たらない影の部分に迫った力作と評価します。
【グランプリ 優秀賞】 News Sapiens緊急スペシャル「花はどこへ行った」
放送日:2022年3月9日(TOKYO FM)、
報道・情報センター部長:原田洋子、編成制作局ゼネラルプロデューサー:延江浩、パーソナリティー:ピーター・バラカン、
ゲスト出演:カテリーナ(バンドゥーラ演奏家)、 坂田 明(サックス奏者)、沼田恭子(ロシア文学者)
 
 ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まったのが2月24日。その2週間後の3月9日に番組は放送された。
 タイトルの『花はどこへ行った』は、米国のフォークシンガーのピート・シーガーが現在のウクライナに当たるコサックの民謡の歌詞にヒントを得たという世界で一番有名な反戦歌である。

 ウクライナ戦争が激化する中で反戦の意志を込めた番組はタイムリーであり、その意義は大きい。平和や反戦をテーマに急遽、制作・放送されたこの番組では、ゲストたちが、反戦の思いを込めて、歌い、演奏し、語った。ラジオに、音楽に何ができるのか。機動力と瞬発力こそラジオの利点である。
 「戦争をやめよう」と番組を聴いた人たちの願いが広がるだけで意味があるのではないのか。そう感じさせてくれた制作スタッフに敬意を表したい。
【グランプリ 特別賞】 遠藤 隆 (株式会社 テレビ岩手 報道特別プロデューサー)
 遠藤隆さんは1956年東京生まれ。テレビ岩手で専ら報道畑を歩んできた。日本テレビ系の「NNNドキュメント」シリーズには1987年、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性を主人公にした「両手に力をください」でデビュー。以来、ディレクターとして計29本を手がけ、1996年放送の「列島検証 破壊される海」はギャラクシー大賞を受賞した。

 特筆されるのは、北上山地で酪農を営む大家族を四半世紀にわたって追い続けたシリーズである。この「貧乏に幸あれ~ガンコ親父と7人の子どもたち~」などは数々の賞を受賞し、2019年、ドキュメンタリー映画「山懐に抱かれて」として公開された。
 また、東日本大震災から10年、監督2作目の「たゆたえども沈まず」のテレビ版は2021年度の芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門の大賞に輝いた。
 報道一筋40年、民放ジャーナリズムの神髄を体現し続ける努力をたたえます。
【グランプリ 特別賞】 大浦 勝 (株式会社テレビ長崎 取締役)
 大浦勝さんは1955年佐賀県生まれ、技術職としてテレビ長崎に入社。報道制作部に異動して以来、ウィークリーの生ワイド番組を担当しながら、ドラマからドキュメンタリーまであらゆる分野に亘って、多くの特集番組を制作してきた。

 特に離島の暮らしと自然に着目したドキュメンタリー作品のうち、五島で製麺業を営む9人家族を四半世紀にわたって継続取材した「五島のトラさん」は様々な賞を受賞し、2017年に映画版として上映され、文化庁「文化記録映画大賞」を受賞し、海外22か国で上映された。

 今も、後輩を指導しながら、数々の特集番組を担当する一方、自らカメラを回しながら、自転車で地域の暮らしをリポートする「自転車小旅」を制作している。
 地域課題と視聴者と常に向き合い、丁寧に応えるという、地域に密着した放送人としての長年の努力を称賛します。
【グランプリ 特別賞】 富澤 一誠 (株式会社アイ・ティオフィス代表)
 1970年以降、団塊世代によるフォーク、ニューミュージック、そして現在のJ-POPへと変わりつつある時代に至るまで、ラジオはその若者たちの音楽を応援することによって黄金期を作って来た。
 そのJ-POPをラジオと共に育ててきた人物が富澤一誠さんだ。氏は1971年、音楽誌へ投稿したことを機に、約50年間にわたり音楽評論活動に専念してきた。そして現在は雑誌・単行本からTV・ラジオ等幅広く活躍している。

 この半世紀、プロデューサー、パーソナリティーとして音楽シーンを追い続け“歴史の証人”として、歌謡曲、フォーク、ニューミュージック、ポップスの変遷と、その時代時代のヒット曲が生まれる背景などを紐解き、“音楽のスポークスマン”として伝えてきた富澤一誠さんの音楽評論家活動50年を心より称え、贈賞します。
【グランプリ 特別賞】 NHK大型企画開発センター オープンソース調査(OSINT)チーム
      統括プロデューサー:中村直文  チーフプロデューサー:善家 賢
 世界的な新型コロナ感染爆発の中で、この1年は世界史を揺るがす大事件が続出した。直接取材班を送り込めない状況で、全く新たな調査報道の在り方を模索したのがNHKスペシャルのオープンソース調査(OSINT)チームである。

 昨年4月4日放送・NHKスペシャルチーム「緊迫ミャンマー 市民たちのデジタル・レジスタンス」。8月22日放送・NHKスペシャル「混迷ミャンマー 軍“弾圧”の闇に迫る」。12月18日放送・NHKスペシャル「中国新世紀・第5回“多民族国家”の葛藤」。今年3月20日放送・NHKスペシャル「ウクライナ 深まる危機~“プーチンの戦争”市民はいま~」。

 以上の一連の番組は、SNSを飛び交う無数の市民たちが投稿した映像を収集し、ファクトチェックし、独自に映像をアーカイブ化し、そのメタデータに加え、衛星から見た俯瞰データや証言などを合わせ、事の真相に迫った地道な作業から生まれた。

 瞬時に飛び交う膨大なSNS情報を堰き止め丹念に整理し真偽を探り記録として残す、そして分析結果を放送波に乗せ、世に示す。この手法は膨れ上がる情報社会の中で放送波の果たす重要な役割だ。高く評価します。


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